July-Oct.

鍛治 毅
2017/11/06

tl;dr

  1. KAGRAの時間が分かった!
  2. KAGRA内部の時間ズレが分かった!
  3. 重力波到来時の影響を考えていく!

KAGRAのGPS時刻測定

目的

KAGRAのGPS受信機から生成されるGPS時刻がどの程度世界共通の時刻と合っているかを調べる。

=> KAGRAの時刻決定精度を調べ、LIGO、VIRGOとの同時観測により重力波の到来方向決定精度がどの程度であるか評価する。

Timing系

測定方法

  • コモンビュー法(概念図:左図)を使い、KAGRAのTimingMasterが生成する1PPS信号とGPS時刻から作る1PPSの時間差を16分に1回測定、記録する(装置:右図)。
  • 毎日のUTC0時からの最初の測定、記録工程と同時にNICTが同様の方法でUTCクロックとGPS時刻の差を記録しているデータを取得し比較することで、実質的にUTCとKAGRAの時刻を比較できる。

NTPサーバー込みのTiming System

測定風景

GPSアンテナ(左図)とコモンビューを自動で実行するNTPサーバー(右図)。

得られるGGTTSデータ

得られるデータの例(左図)と、その読み方(右図)。 NICTでも同様のデータを生成、アップロードしているので、このREFGPSの同じ時間、同じ衛星のものを差分を取り、仰角で加重平均をとり、差分データを作成する。

測定結果

  • アンテナを外に出した日を有効と思って、それ以外を取り除いた物のUTCとKAGRA時刻の差の散布図とその度数分布。
  • 分布のばらつきは、KAGRAの時刻、GPS時刻、UTCの時刻の測定誤差等による。
  • オフセットはKAGRAの時刻遅れの他にも、NTPサーバーのアンテナ遅延の補正間違いなどが原因。

アンテナを出せていない時もまとめてプロット

理由は分からないが、+方向に外れ値(のように見える点)が増える。外れるのはたまたまであるかもしれないが、アンテナを出せていないことは事実なので、実際の最終状態である屋根の上に立てるというものの評価とはかけ離れていると思うので、除いてもいいだろう。

GPS衛星の位置

You must enable Javascript to view this page properly.

15秒データのGPS位置情報をプロット、衛星の動きが分かる。 また、北部会館側があまり見えていないのが分かる。いずれNTPサーバー用のアンテナも屋根の上に立てる予定なので、重み付きとはいえ平均値なので、分散が小さくなり、時刻決定精度も向上すると思われる。

考察

オフセットにも誤差は乗るものの、おおよそ±100ns程度で時刻を決定できることが分かった。 LIGOやVIRGOが時刻精度をどのように見積もっているのか分からないが、同様のシステムにより~±100nsで決定できると思われるので、これから各検出器で重力波を検出した時の到来方向決定精度を考えていく。

You must enable Javascript to view this page properly.

各検出器の位置関係

KAGRAの内部遅延測定

目的

  • KAGRAではGPS時刻からTimingMasterが生成するタイミング信号をそれぞれ直交する3km先の鏡を制御するシステムに送り、それぞれの同期を取っている。
  • この同期がどのくらいズレていて、制御にどのくらい影響があるかを調べる。

測定方法

  • KAGRA坑内中央で、TimingMasterや中央のTimingFanout、3km先のTimingFanoutからのタイミング信号をTimingSlaveで受け取り、TimingSlaveのクロック信号の立ち上がりをオシロスコープで観測し、この立ち上がりの時間差を測定する。

測定の風景

各Fanoutからの信号を運んでくる光ファイバーをSlaveに入れてそれぞれのパターンで測定。

測定結果

Master vs. Fanout(Center):左図 Fanout(Center) vs. Fanout(X方向3km先)

  • ~10ns程度の遅延があることが分かる。
  • 65kHzのクロックの丸々1周期遅延があるということはなさそうであるということはわかっている(DuoToneの測定)
  • Master vs Fanout(X方向3km先)の測定結果は右図と左図の遅延の和になっている。
  • これは実際のKAGRAの遅延測定をしたことにはならないが、3kmを光が通過する時間より遅延が小さいので、補正がされているということは分かるので、補正がどの程度効いているかの確認になった。

遅延補正測定

  • Fanoutはケーブル遅延を補正をしている。
  • Fanoutの内部クロックは67MHzとLIGOのドキュメントがある。
  • 約15nsで補正が効く。 => 確かめる。

遅延補正測定方法

Masterの空きポート(固定)で、2m、3m、5m、10m、150mの光ファイバーケーブルのそれぞれの組み合わせで時間差を測定する。測定内容はほとんど先の測定と同じである。

結果(長さが等しいとき)

ほぼ等しい。

結果(xm vs. 150m)

2m(左上)と5m(左下)に注目。

結果(xm vs. 10m)

2m(左上)と5m(左下)に注目。

結果(xm vs. 5m)

2m vs. 5m(左)に注目。ここまでの図からも、2mと5mで似たような結果になることが分かる。 => 補正のためのFanoutのクロックが3mに相当する周期で効いているような気がする。 スペックが~5ns/mと思うと、記述通り67MHzでクロックが動いていることになる。 つまり、光ファイバーの長さが分からずとも、1モジュールごとに最大~15nsの遅延があるということになる。

結果(2m vs. 3m)

~5nsなので、5ns/mも確認が取れる。 前ページの3m vs. 5mを見ても、~10nsの差なので、そこそこ確からしい。

port依存再検証

以前(7月)、こういうものがあった。

このport毎の遅延時間の大幅なズレは、~15nsとなっており、補正の限界値にかなり近く、先ほどの測定からport毎に3m程度ケーブル差があるような振る舞いをしている。これはおかしいので、masterの空きport全てで同じ長さ(10m)のケーブルに対して遅延測定を再び行った。

結果

por依存は若干あるものの、~15nsとはならない。

=> ケーブル長が3mの時は僅かな誤差で補正するときとしない時に分かれ、~15nsの差が出てしまったのだろう。

=> やはり~3mで補正1周期となっている。また、port差は多少はあるだろう。

考察

FanoutやSlaveを1つ挟むごとに最大~15nsズレることがわかった(?)ので、これから理論波形がどれくらい制御ロスするかなどを考えたい。