KAGRAにおける環境磁場測定
目的
KAGRAでは磁力を用いてテストマスの制御をおこなうため環境磁場が雑音になりうる。一般的に環境磁場雑音はその他の雑音と同じように無相関な雑音だ。しかし地上と電離層の間で発生する「シューマン共振」と呼ばれる地球規模の磁場の共振は、相関のある磁場雑音として検出されてしまう。このため検出器間の相関解析をした際の感度は、シューマン共振によって制限される可能性がある。本研究はKAGRAサイト、Virgoサイト、LIGOサイトで共同の磁場観測をおこなうことで、
- シューマン共振が相関のある磁場雑音として検出されるか
- それを取り除くフィルターの構築は可能か
を検証することを目的とした。
測定
測定の概要
測定は東京大学地震研究所の小河勉氏の協力の下、2016年7月21日の14時00分(JST)から2016年7月22日の16時00分(JST)までの27時間おこなった(新跡津坑口でおこなった最長の測定データについて示している。坑内の測定はより短い時間しかおこなえていない)。 既にVirgoサイトとのコヒーレンスの確認は済んでおり、測定は正しそうだということを確認している。
計測器(磁場計)
測定には地震研所有の磁場系を6台使用した。その内訳はMetronix社のmfs-06を4台、mfs-07eを2台であった。 風防のために新跡津坑口付近での測定は地面に穴を掘り、水平方向の磁場系は完全に埋め、垂直方向の磁場系は全体の70%程度を埋めて測定した。mfs-07eはmfs-06に比べコイル長が短いので、これを垂直方向の測定に使用した。
計測器(ロガー)
ロガーにはMetronix社のADU-07eを用いた。 サンプリング周波数は1024Hzとし、一つのデータは20分とした。
測定場所
測定場所は新跡津坑口付近とセンタールーム付近の二カ所であり、フィルターの性能を評価したいという目的から新跡津坑口付近に二カ所の測定場所を設けた。 測定時間はGPSを用いてVirgoサイトと同期し、方位に関しては日本の磁場計測の流儀に則り磁北を基準にした。 以下に測定場所の詳細と時刻を示す。
- KAGRA新跡津坑口1 測定日:2016/7/21/ 05:00:00(GMT)〜2016/7/22/ 07:00:00(GMT)
- KAGRA新跡津坑口2 測定日:2016/7/21/ 10:00:00(GMT)〜2016/7/22/ 06:00:00(GMT)
- KAGRA坑内 測定日:2016/7/21/ 07:30:00(GMT)〜2016/7/21/ 08:30:00(GMT)
データの校正
記録された生データを実際の磁場に校正し、最終的には校正済時系列データを取得した。 この校正済の時系列データのスペクトルと、Virgoサイトでの測定との相関を確認し校正結果が正しいと結論づけた。
データの校正の手順
計算ソフトにはMatlabのバージョン2015bを用いた。 校正は磁場計自体の周波数応答関数とロガー(ADU-07e)内蔵のフィルタから逆フィルタを計算し、それを記録されたデータに用いた。 なお本校正には小河氏が作成した校正マニュアルを使用した。
逆フィルタの作成(磁場計の周波数応答関数)
磁場計の周波数応答は工場出荷時に測定されており、それと周波数応答関数の理論式をフィッテングすることで求めた。 本来は各測定器に対し別々の周波数応答関数を求める必要がある。 しかしフィッテング結果から求めた周波数応答関数は注目している周波数帯でほとんど変化がなかった。このためmfs-06とmfs-07eそれぞれに代表的な周波数応答関数1つを定義することにした。なお計算結果がMetronix社のホームページで公表されている磁場計の周波数応答のスペクトルと一致していることも確認した。
逆フィルタの作成(ロガー内蔵のフィルタ)
ロガーにはAD変換に伴う雑音を抑えるためにローパスフィルタが内蔵されている。 ゆるやかなアナログフィルタとより急峻なデジタルフィルタの二段構成になっており、その理論式はADU-07eのマニュアルに記載されている。
逆フィルタの作成(まとめ)
前で計算したフィルタから逆フィルタを周波数領域で求めた。 それを校正無しの時系列データのスペクトルにかけ、結果が別ソフトで計算した磁場のスペクトルと一致するか確認した。 またシューマン共振の値に矛盾がないか、周波数は正しそうかも確認した。
時系列データへの変換
Virgoとデータの形式を揃えるため1時間置きのデータに直した上で時系列データを250Hzにダウンサンプリングし、それを窓関数無し(Virgoと合わせるため)のFFTした。 次に周波数空間で上で求めた逆フィルタをかけ、逆フーリエ変換することで校正済の時系列データを得た。
時刻に関しては、Virgo側と合わせるためにGMTを用いることにした。 これをMATLABのdatenumコマンドを使いMATLABのシリアル番号に変換した。 なおdatenumでは秒未満の単位を変換できないので、秒未満に関しては内挿した。
校正の正しさの確認
校正済時系列データが正しく計算できているかは、そのスペクトルに矛盾がないかとVirgoサイトとコヒーレンスをとることで確認した。